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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)41号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨および審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 取消事由に対する判断

1 第一引用例(特開昭五四―二九九六六号公開特許公報)に審決認定のとおりの記載があること、本願発明と第一引用例記載のものとの間に審決認定のとおりの一致点および相違点があることは、原告も争わないところである。

2 ところで、原告は、本願発明と第一引用例記載のスポツトノツキング方法(第一引用例における「陰極線管の高電圧エージング方法」と本願発明の「スポツトノツキング方法」とは放電により同一の目的を達成しようとしている点で同義語であることも、原告の認めるところであるから、「スポツトノツキング方法」の用語を用いることとする。)との相違点についての審決の判断の誤りを主張するに当たつて、本願発明の相違点の構成が「低周波数の変動する直流パルス」と「持続時間は短くかつ立上りの速い高周波数電圧パルス」とを「同時に重畳印加する」ことに限定される旨主張するので、この点について検討する。

(一) 前記争いのない本願発明の要旨に、成立に争いのない甲第二号証(昭和五五年五月一二日付特許願書添付の明細書および図面)、甲第三号証(昭和五七年七月六日付手続補正書)および甲第四号証(昭和五八年二月一四日付手続補正書)を総合すると、本願発明は、CRTを製造するに当たつて、CRTを完全に組み立て、排気封止した後に行うところの「陰極線管の電子銃マウント構体をスポツトノツキングする方法」に関する発明であること、スポツトノツキングは、後日CRTの正常動作中に電子の電界放射を起こすおそれのある突起、バリあるいは粒子等を除去するために電極間に放電を起こさせることによつて行うこと、従来のスポツトノツキング方法では、CRTの正常動作電圧の最大値の約二倍の高電圧パルスを印加していたところ、最近では動作電圧の高いものが用いられるようになつてきたことからスポツトノツキング電圧も高くしなければならなくなつたが、高電圧を用いるようになつたことによつてアーク放電が起こつてガラス部に細かい亀裂が生じたり、蒸発した金属がネツク部の内側やマウント構体の絶縁体表面に付着するという不都合が生じるようになつたこと、このような不都合を少なくするためには処理時間や電圧を変えればよいが、そうすることによつて処理能力の低下と設備費の増大を招くことになるほか、G2(遮蔽電極)とG3(集束電極)のスポツトノツキングと、G3と陽極とのスポツトノツキングとを各別に行わなければならないという欠点が生じること、本願発明は、右のような従来の方法の欠点を解消することを目的として、特許請求の範囲に記載されたとおりの構成を採択したものであつて、特に、<1>「集束電極を電気的に浮動させて」おく構成とした点、および(陽極と互いに接続された電子銃素子との間に)<2>「低周波数の変動する直流パルスより成るスポツトノツキング電圧を印加すると共に…持続時間は短くかつ立上りの速い高周波数電圧パルスを印加すること」とした点(相違点の構成)に構成上の特徴があるものであること、ならびに前記<2>の構成は、昭和五八年二月一四日付手続補正書によつて追加補正された構成であること、が認められる。

(二) 原告は、前記争いのない特許請求の範囲に記載された「上記陽極と上記互いに接続された電子銃素子との間に低周波数の変動する直流パルスより成るスポツトノツキング電圧を印加すると共に上記陽極と上記互いに接続された電子銃素子との間に持続時間は短くかつ立上りの速い高周波数電圧パルスを印加する」との相違点の構成は、低周波数直流パルスと高周波数電圧パルスとを重畳印加することを意味するものであり、両者を時間をずらして個別印加することを含まない旨主張し、本願明細書の記載を援用する。

ところで、一般に、「Aを印加すると共にBを印加する」という表現自体からは、単にAとBとの両者を加えることを意味するものであり、特に本願発明における低周波数直流パルスや高周波数電圧パルスのように、各々パルス通電期間とパルス休止期間を有するものであつてみれば(前掲甲第二号証一二頁一九行ないし一三頁六行、甲第三号証三頁正誤表参照)、これら両パルスのパルス通電期間を積極的に合致させるための構成が採用されていればともかく、そのような各別の構成が規定されていない本願発明においては、低周波数直流パルスと高周波数電圧パルスとを加えただけでは両パルスが必ず「重畳印加」されるものとはいえず、時間的にずれて印加される場合も生じることを否定することはできない。このように、本願発明の相違点の構成に係る特許請求の範囲の解釈としても、本願発明における印加の態様のうちには、低周波数の直流パルスと高周波数電圧パルスとの重畳印加のみならず、時間をずらした印加の態様、すなわち個別印加も含まれるものとみざるを得ないのであるから、本願発明は、低周波数直流パルスと高周波数電圧パルスの両者を共に用いて印加するという広い概念を発明の技術的内容としたものと解するのが合理的である。したがつて、本願発明は、低周波数直流パルスのみを印加して放電を発生させる場合に比して、高周波数電圧パルスを併せ用いることによつて所期の放電をより確実に誘起させようとした点に特徴があるものと認められ、両パルスの「重畳印加」という印加態様に構成上の特徴があるものとは認めることはできない。そして、原告の指摘する本願明細書の記載内容をみても、以下に検討するとおり、本願発明を右のように解釈し理解することを誤りとすべき合理的な根拠も見出すことはできない。

(三) 前掲甲第二号証ないし第四号証によれば、補正された本願明細書には、低周波数直流パルスと高周波数電圧パルスの印加態様に関する記載としては、次の<1>ないし<4>のような記載のあることが認められるので、これらの記載内容を、原告の主張に照らして検討することとする。

<1>「更にこのスポツトノツキング電圧に加えて正規のスポツトノツキング電圧より持続時間が短く立上りの速い高周波数電圧パルスを陽極と制御電極より下の電子銃素子との間に印加する。」(当初明細書三頁九行ないし一二行、昭和五八年二月一四日付手続補正書二頁(2)、(3))

<1>の記載は、前記特許請求の範囲における「低周波数の変動する直流パルスより成るスポツトノツキング電圧を印加すると共に…持続時間は短くかつ立上りの速い高周波数電圧パルスを印加する」との記載と同様の規定であるから、この記載が両パルスの「重畳印加」のみの技術を記載したものと理解できないことは、前記特許請求の範囲の記載についてすでに述べたとおりである。

<2>「低周波数直流パルスを印加すると共に、低電圧電子銃素子に無線周波数バーストを印加すると、一連の放電が発生してこれが電子銃構体の全長に布延する。」(当初明細書九頁一三行ないし一五行、補正書二頁(5))

従来のスポツトノツキング方法についてすでに認定説示したとおり低周波数直流パルス電圧のみから成るスポツトノツキング電圧によつても、放電は発生し得るのであるから(両パルスが重畳印加されてはじめて所期の放電が発生するものとは考えられない。)、両パルスを時間的にずらして印加しても一連の放電が発生するものと考えざるを得ない。原告主張のように、低周波数直流パルスと高周波数電圧パルスとが同時に、重畳印加された場合にのみ放電が発生するものとは理解できない。したがつて、右の<2>の記載をもつて、本願発明が、両パルスを「重畳印加する」印加態様に限定された発明であることを根拠づけることはできない。

<3>「パルス源159からの高周波電圧によつて放電がさらに高信頼度で誘起され」(当初明細書一四頁二行ないし三行)

<3>の記載は、前述のとおり低周波数直流パルスのみから成るスポツトノツキング電圧の印加によつても、放電が発生することを前提として、より確実に所期の放電を誘起させるために高周波数電圧パルスを印加することを述べているものと解されるから、低周波数の直流パルスと高周波数電圧パルスとを重畳印加しなければ放電が高信頼度で誘起されないものとも考えられないので、この記載から本願発明の印加態様が「重畳印加」に限られるものとも理解することはできない。

<4>「この発明の実施例(第3図)では、電源357からの低周波パルス電圧の印加に加え更に電圧パルス源359から高周波数狭幅急速立上り電圧パルスを重畳印加してスポツトノツキングを行なう」(当初明細書一五頁一行ないし三行、補正書二頁(8)同三頁六行ないし九行)

右の<4>の記載は、低周波数直流パルスと高周波数電圧パルスとを重畳印加する態様について述べているものと認められるが、この記載は、一実施例(第3図とあるのは、図示の内容に徴して第4図の誤記と認められる。)のみについて説明したものであることが明らかであるから、本願発明の特許請求の範囲の記載に基づいて理解されるべき本願発明の技術思想を右の一実施例に限定解釈すべき理由はない。

(四) 原告は、補正後の本願明細書および図面には両パルスの個別印加に関して何らの記述がないことから、本願発明は両パルスを「重畳印加」する印加態様に限定される旨主張するが、前述のとおり両パルスのパルス通電期間を積極的に合致させるための構成が採用されていなければ、低周波数直流パルスと高周波数電圧パルスとを加えただけでは両パルスが必ずしも重畳印加されるものではないのであるから、両パルスを重畳印加させるためには構成としてこの点を積極的に規定しなければならないのであり、単に個別印加についての記載がないことをもつて、そのことが排斥されているとは到底いえない。更に、原告は、本願発明が重畳印加の印加態様に限定される根拠として、本願明細書における効果に関する記載を援用するが、前掲甲第二号証ないし第四号証に基づいて補正された本願明細書における効果に関する記載を検討してみても、原告の指摘する事項はいずれも重畳印加に特有の効果ではなく、低周波数直流パルスと高周波数電圧パルスとを共に用いたことに基づく効果として理解され、本願明細書における効果に関する記載を通してみても、本願発明を、前記認定説示のとおり低周波数直流パルスと高周波数電圧パルスの両者を共に用いて印加するという比較的広い技術として理解することを誤りとみるべき記載は見出し得ないし、他に本願発明の理解についての原告の右の主張を裏付けるに足る記載もない。この点の原告の主張は理由がない。なお、成立に争いのない甲第八号証(拒絶査定謄本)によれば、本願の審査段階において審査官は本願発明における印加態様を原告主張のように「重畳印加」するものと理解していたようにも認められるが、この認定判断がその後の審判手続における判断を拘束するものではないから、原告のこの点も理由がない。

3 第二引用例(米国特許第四、〇五二、七七六号明細書)が、本願明細書において公知の技術として紹介されているものであり、そこに審決認定のとおり「陰極線管の電子銃マウント構体をスポツトノツキングする際、印加する電圧として、低周波数の変動する直流パルスより成るスポツトノツキング電圧と持続時間が短くかつ立上りの速い高周波数電圧パルスを用いる」技術が開示されていることは、原告も認めるところである。

そして、成立に争いのない甲第七号証(第二引用例)によれば、第二引用例は、本願発明と同じく「カラーテレビジヨン映像管の電子銃構体のスポツトノツキング方法」の発明に係る明細書であり、そこに記載された発明は、本願発明と同様に「管の排気封止後に高電圧のスポツトノツキングを行つて、電子銃上の金属突起や浮動粒子或いは管内の異物を融かしてそれらが以後アーク放電を起こさせないようにすること」を技術的課題ないし目的としたものであつて(一欄四四行ないし四九行)、かつ、少なくとも二つのパルスを時間をずらして個別印加することにより右の目的を実現しようとしたものであると認めることができるから(第二引用例が個別印加の態様を開示したものであることについては原告も争わないところである。)、「集束電極を電気的に浮動させた」構成を採用した第一引用例記載のスポツトノツキング方法において、第二引用例に記載された印加する電圧として、低周波数の変動する直流パルスより成るスポツトノツキング電圧と持続時間が短くかつ立上りの速い高周波数電圧パルスを用いる技術を採択し、本願発明の相違点の構成を想到することは当業者が容易になし得ることといわざるを得ない(なお、付言するに、前掲甲第七号証に基づいて、第二引用例に記載された技術内容を詳細に検討するも、第二引用例においては、被告の主張するように、両パルスを重畳印加しているものとみることはできない。)。

4 右のとおりであるから、審決が本願発明における低周波数直流パルスと高周波数電圧パルスの印加態様について「重畳印加」の態様に限定できないとしたうえで、本願発明と第一引用例記載の方法との相違点を認定し、この相違点について、第一引用例のスポツトノツキング方法において第二引用例に開示された「低周波数の変動する直流パルスと高周波数電圧パルスを併せ用いる」という印加方法を採用することに格別の困難性は認められないとした判断は正当であり、審決にはこれを取り消すべき違法の点はない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものとして、これを棄却することとする。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

ヒータ、陰極、制御電極、遮蔽電極、集束電極および陽極を有する排気された陰極線管の電子銃マウント構体をスポツトノツキングする方法であつて、上記ヒータ、陰極、制御電極および遮蔽電極を互いに接続し、上記集束電極を電気的に浮動させておいて、上記陽極と上記互いに接続された電子銃素子との間に低周波数の変動する直流パルスより成るスポツトノツキング電圧を印加すると共に上記陽極と上記互いに接続された電子銃素子との間に持続時間は短くかつ立上りの速い高周波数電圧パルスを印加することを特徴とする方法(別紙図面(一)参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

図面(一)

<省略>

(他は省略)

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